大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和54年(ネ)589号 判決

控訴人

大木半次郎

控訴人

大木ます子

右両名訴訟代理人

福長惇

被控訴人

株式会社丸辰興業

右代表者

中西賢一

被控訴人

鳥居辰夫

右両名訴訟代理人

桜川玄陽

主文

一  本件各控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人は、「一、原判決を取消す。二、1、被控訴人らは、各自、控訴人大木半次郎に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和五一年六月一日から右完済にいたるまでの年五分の割合による金員を支払え。2、被控訴人らは、各自控訴人大木ます子に対し、金一、〇〇〇万円及びこれに対する昭和五一年六月一日から右完済にいたるまでの年五分の割合による金員を支払え。三、訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの連帯負担とする。」との判決及び右二項の1、2、につき仮執行の宣言を求めた。

被控訴人らは、「本件各控訴を棄却する。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、次のとおり付加するほか原判決の事実欄に記載されているとおりである(但し、原判決九丁表二行目の「及びない」を、「及ばない」と改める)からこれをここに引用する。

(付加)

(当審において控訴人が付加した主張)

一  被控訴人鳥居は、本件事故車を、公道に面し副員3.6メートルもある出入口を有する資材置場内に、夜間、出入口の鉄扉を全く開放した状態で、同車のドアにも施錠せず、エンジンキーを差込んだまま放置していたものであり、かつ、このような状況で同車を放置すれば、盗難のおそれが大きいことは同被控訴人及びその妻久枝も十分予見していたところである。それ故、被控訴人らに同車の管理、保管上の過失のあつたことは明らかである。そして、自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)第三条の自動車の運行には自動車の駐、停車行為も含まれるのであるから、本件につき被控訴人らには自賠法上の損害賠償責任がある。

また、右のような同車の管理、保管状況からすると、被控訴人らは客観的、外形的に第三者に対し同車の運転を容認していたとみられても仕方がないものであり、したがつて、被控訴人らはこの点からしても自賠法上の運行供用者責任を免れることはできない。

二  仮に右一の主張が認められないとしても、被控訴人鳥居には右のとおり本件事故車の管理、保管上の過失があり、今日の交通事情のもとでは、右過失と控訴人らが本件事故によつて蒙つた損害との間に相当因果関係があるものというべきであるから、同被控訴人は民法第七〇九条の不法行為責任、その使用者たる被控訴人会社は同法第七一五条の使用者責任又は同法第四四条の責任を、それぞれ負うべきである。

(当審において被控訴人らが付加した主張)

一 控訴人の右一、二の主張は争う。被控訴人らに本件事故車の管理、保管上の過失はない。すなわち、同車を使用していたのは、被控訴人鳥居の妻鳥居久枝であるから、同車の保管上の責任を負うべきものは右久枝であるが、同女は毎晩就寝するときに同車を収納しておく倉庫兼車庫の扉に施錠し、同車からエンジンキーを抜いていた。同車が本件盗難にかかつた際は、右車庫に接続している被控訴人鳥居の母屋には成人した同被控訴人の子等がおり、別棟には被控訴会社の従業員二人がいたが、就寝したものは誰もおらず、被控訴人鳥居夫婦は右母屋と接続している被控訴会社事務所で来客と面談中であつた。右のとおり、被控訴人鳥居夫婦らは就寝前であり、本件事故車を当夜中に再度使用するかもしれない状態であつたため、久枝は同車にエンジンキーを差込んだままにしておき、右車庫の扉も開けておいたのであつて、久枝にも被控訴人らにも控訴人主張のような過失はない。

二 被控訴人鳥居は被控訴会社の従業員ではないし、その取締役でもないから、仮に被控訴人鳥居に本件事故車の保管上の過失があつたとしても、被控訴会社が本件事故による損害賠償責任を負ういわれはない。

理由

本件につき更に審究した結果、当裁判所も控訴人らの本訴請求をいずれも棄却すべきものと判断する。

その理由は、次のとおり訂正、付加するほか原判決の理由と同じであるから、これをここに引用する。

(訂正)

一原判決一〇丁裏四行目の「本件車庫は」の次に「鉄骨造、スレート葺、トタン壁のものであつて、」を挿入する。

二同八行目の「夜間」から同一一丁表三行目の「開放していたこと、」までを次のとおり改める。

「昼間は、本件車庫の扉は閉めておくこともあり、また開放しておくこともあつたが、夜間は久枝が就寝する際には、同女は右扉を閉めて施錠するのを常としていたこと、昭和五〇年一月二日に久枝は本件事故車を使用し、本件車庫内にこれを駐車させたが、再びこれを使用することがあるかもしれないと考え同車のドアに施錠せず、エンジンキーを差し込んだままにしておき本件盗難にあつたこと、同車が盗窃された同日午後一〇時頃は、右車庫に接する母屋には被控訴人の娘二人がおり、久枝及び被控訴人鳥居はまだ、就寝せず、前記事務所で来客と面談中であつたので、その頃まだ本件車庫の出入口を閉鎖施錠することなく開放していたこと、」

三同末行の「従業員」の次に「もしくは被控訴人鳥居の家族ら」を挿入する。

四同丁裏一行目の「経過後、」の次に「久枝が車庫に赴き、」を挿入し、同八行目の「経過し、」を「経過の後に、」と同八、九行目の「距つた箇所で」を「同車を運転走行したうえ、前記沼津市内において」と各改める。

五同末行の「惹起したものというべく、」の次に「すなわち、本件事故を惹起した本件事故車の運行は被控訴人らの支配を脱し、同人らの利益に帰するものとはいえないから、」を挿入する。

(付加)

一当審において控訴人らが付加した主張一について検討する。

一般に、自動車を駐、停車させる行為が、自動車損害賠償保障法第三条にいう自動車の運行に当る場合があるとしても、本件盗難の際本件事故車を駐車させていた本件車庫が被控訴人鳥居の母屋と接続していて同母屋と同一敷地内にあり、被控訴会社の事務所とも同一構内にあつて、鉄骨造、スレート葺、トタン壁の構造をもつものであり、その人口は道路と直結するものではないこと等は前記認定のとおりであり、このことと前記認定事実からすると、本件車庫が客観的に第三者の自由な立入りを禁止する構造、管理状況にあると認めるに十分である。本件事故車の盗難当時右車庫の扉が閉鎖されておらず、同自動車のドアが施錠されず、同車がエンジンキーを差し込んだままの状態にあつたとしても、以上の事実からすると、客観的、外形的にみて、被控訴人ら又は久枝が右自動車につき第三者に対しその運転を容認していたと同一の状態に置いたものとみることはできない。

したがつて控訴人らの右主張は理由がない。

二当審において控訴人らが付加した主張二については、前記認定、右説示のような本件車庫の構造、管理状況からすると、被控訴人鳥居に控訴人ら主張のような過失があつたと認めることはできないので、控訴人らの前記主張はこの点ですでに理由がない。

以上の次第で、控訴人らの本訴請求はいずれも理由がなく棄却すべきものであり、これと同趣旨の原判決は相当であつて、本件各控訴は理由がなく棄却を免れない。

よつて、民訴法第三八四条、第九五条、第八九条に従い主文のとおり判決する。

(外山四郎 海老塚和衛 鬼頭季郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例